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Excuse me

君が笑って 僕が支えて それでいいじゃないか なんて笑って

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馬を指して鹿と為す

「貴方ったら、どうしてそう節操がないのかしら」

生まれたての太陽の日差しを浴びた寝覚めの良い朝に、いきなりそんな事を言われたのだから腹が立つのは当然だ。
僕はむすっとした顔を作って、黙りこくって木製の無表情な椅子に腰掛けた。
食卓に置かれた冷め切ったピザトーストに手を伸ばして一瞬逡巡する。

――温めなおそうかな――そう思ったが、時間がない。
仕方ないな、と思い切り齧り付いた。
ケチャップのツンとした酸味が口中に広がって、一瞬咽そうになってしまった。

「一体全体どうしてこんなにケチャップを塗りたくったんだい」

非難がましい視線を妻に向けるが、彼女は北極に浮かぶ氷のように冷たい面構えを崩さない。
その風貌に思わず僕が怯んでしまいそうになったくらいだ。

「それを食べれば、口紅も消えるんじゃない」

一層つっけんどんと言い放った彼女に、僕の思考は暫し停止した。
そして、昨日発覚した、“浮気疑惑”の事を言っているのだろうと推測する。

「だから、昨日も言ったじゃないか。あれは電車の中で……」

「それにしたって、肩に口紅が付くものかしらね」

「浮気したって付きやしないさ」

「まるで、しったような口ぶりね」

「知らないから言っているんだ」

お互いに機関銃を打ち合っている見たいに、言葉が言葉を発射していく。
双方が相手の上をいこうと論を積んでいくものだから、いよいよ言い分は雲の上まで登っていく。

「貴方の言う事はとっても賢いようで、彼処に消えてしまううわ言なのよ。言い訳はもう飽き飽きね。」

「浮ついた言葉を吐くのはいつも君の方さ。安い言葉ばかりもううんざりだね」

水掛け論の堂々巡り。
僕と彼女は食卓の周りを回る。
巡って廻って言い争い。
僕と彼女は口争中。

「ねぇ、私の友達がホテル街で貴方に似た人を見掛けたのよ」

「それは会社の帰り道だよ。同僚が酔ってしまって近道をしたのさ」

「そうやってまた嘘を吐くのね。言い訳は男らしくないわよ」

「そうやって君はまた疑うんだね。女々しいったらありゃしないな」

時計の針が真左を指し、いよいよ僕は遅刻寸前だ。
だが、僕は会社の事などどうでもよかった。
ただ、この妻を言い負かさなければどうしようもない。

「そういえば貴方はこの頃いつも帰りが遅いのね。どこぞの野良猫さんとでも遊んでいるのかしら」

「だからいつも説明してるじゃないか。会社付き合いってものがあるのさ」

「会社会社ってそればっかり。ああ男はなんて単純なの」

「君こそいつも疑ってばっかりだ。女はなんて面倒くさいのか」

怒っちゃった怒っちゃった怒っちゃった怒っちゃった。
心が凍る朝の冷気でも醒ませられやしない。

「そうね、貴方には一つだけ、言わなくちゃいけない事があるの」

「そうかい何でも言ってくれ。どうせまたどうでもいい戯言なんだろ」

「貴方のその賢ぶった口調、とても馬鹿みたいだから辞めておいたらどう?」

「そういう君こそその尖らせた口、馬面みたいで可愛くないな」

険悪な空気に呑まれる事なく、一匹の黒猫が部屋を横切る。

「貴方ったらその皮肉な口調が腹が立つのよ」

「そんな事言ったって君はいつでも腹が出てるぜ」

「出てないわよ。貴方ってほんっとうに下らない人なのね」

「そうやってそうやって君はいつもどうしようもなくユーモアが通じない人だな」

「貴方のそういうところがダサいのよ」

「結局いつも悪口ばかり。君って人はいつもそうだ」

鏡写しの二人が口論。
結局同じと気づかない。
時計の針はとうとう真上を指して、遅刻はいよいよ確実だ。

「そう、私と貴方はもうやっていけないのかも知れないわね」

「そうだね。僕ももうウンザリさ」

「私たち、昨日も同じやり取りをしていたわ」

「立場が逆でね」

「馬鹿みたいね」

「お似合いさ」

馬と鹿は、毎日を繰り返す。毎朝のように、互いを疑いながら、罵倒しながら、それでも二人は繰り返す。
ありがちな朝の、ありがちな風景。
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